ちょっと掘ってみようかな。


by wakas
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雄叫びをあげるイチロー選手

準決勝後、インタビューに普段より甲高く早口にまくし立てる姿は、84年振りにメジャー年間最多安打記録を更新した時でさえ、メディアの前では常に沈着冷静に見えたその人とは思えなかった。

「30歳になったら言いたいこといいやりたいことをやる、それまでは野球に打ち込む」
以前から本人はそう決めていたという。
だとすると、もっと以前からイチロー選手の変化はあったことになる。
不振続くチームへの苦言やドラマ出演など、それまでのイメージと異なる「変化」だった。
(日本記録樹立当初はマスコミに対しても饒舌だったことを考えると、正確には本来のイチロー選手に戻っていたというべきかもしれない)
そして私達はWBCが始まるまでその変化に「無関心」だった。
WBCの中で、イチロー選手が感情を露わにコメントする姿に接するようになった人の中には、それまで持っていたイチロー選手のイメージとのあまりのギャップに戸惑いを持った人も少なくなかったのではないだろうか。
私もその一人であり、自分なりにイチロー選手の変化を考えてみた。

「言いたいことを言うようになった」

結局はただそれだけのことのような気がする。

では、そこまでイチロー選手を熱くしたものは何だったのか。
その一つは「プレッシャー」ではなかっただろうか。

「5年間アメリカにいて、日本はすごい国だなと思う。こっち(日本)にいる時には見えなかったものが見えてきた。愛国心みたいなものが芽生えていた」
そんな想いを持つようになったイチロー選手が日本代表に招集されたこと。
他の日本人メジャーリーガーや国内有力選手が相次ぎ辞退したこと。
(結果的に大塚投手と共に日本人メジャーリーガーの代表にもなってしまった)
その一挙一動に国内外のマスコミが注目するのは、必然だったのかもしれない。
そして周囲は当然のように「イチロー選手」にはMLBタイトルホルダーに相応しい結果を求めていたのではないだろうか。

マスコミ、ファンだけでなく、王監督の「イチローが加わったのが大きい。彼がいなかったら、メジャーリーガーから見下されていたでしょう。チームに有形無形の力を与えていると思う」(スポーツコミュニケーションズより)というコメントからも、イチロー選手が背負っていたプレッシャーの大きさの一片がうかがい知ることができる。
そして国内外で波紋を生んだ自らの「一言」で、逆風の中でプレーすることになる。
(当初の発言自体は意図を歪曲した報道によるもので発言時の表情や前後のコメントを知れば取り立てて騒ぐほどの内容ではなかったことは明白だった)


「世界一になりたいから参加する」と公言して臨んだ第一回WBC。
イチロー選手は本気で世界一を目指していた。
当初、イチロー選手は福岡に集まった選手間に漂う空気に危機感を持ったという。
各チームの主力選手が集まったものの選手間には当然に連帯感はなく、川﨑、西岡といった若手選手が雲の上の存在として自身に注ぐ視線や松中選手など他の選手からも「孤高の人」として距離を持たれていることを敏感に感じ取ったイチロー選手は、自ら積極的にチームメイトに声を掛け選手間の距離を近づけることに努めた。
(日本球界と5年のブランクがあったことを考えるとチーム内にイチロー選手と多くのチームメイトとの関係に距離があるのは不思議なことでもなかったのかもしれない)
誰もが持っていた当初のイメージと異なる「人間くさい」イチロー選手に周囲が慣れるのには少々時間がかかったと松中選手もチームメイトとイチロー選手との融和を話していた。

イチロー選手の、時に殺気すら感じさせる言動は、プレッシャーへの反動とともに「愛国心」「日本球界代表の自負(プライド)」が源だったのかもしれないが、「己への叱咤」はもちろん、「チームの鼓舞」も意識していたのかもしれない。
(一部でプレー中、試合終了直後に放送禁止用語を吐き捨てたという報道があったが、私の知る限り音声がない画面だったはずなので読唇による推測報道と思われる)

短期決戦では「カリスマ」であるよりも「チームワーク」の有無が対強豪国に勝利するポイントと考えていたベテラン選手とイチロー選手は話し合ってチーム内での役割を決めたという。
実質的にチームリーダーの役割を担ったイチロー選手も言葉だけでなく背中でチームを引っ張った。
この姿が私達には新鮮な一面だったのかもしれない。

一度は2次リーグ敗退を覚悟したことで、数々のプレッシャーの呪縛からいくらか解き放たれたように、イチロー選手も開き直ったかのようなプレーが続いた。

初めての日の丸を胸にしたイチロー選手はどこか子供のように喜んでいたようにも見えた。
喜びと共に背負った日本代表という重み。
これほどイチロー選手の喜怒哀楽を目にしたことはなかったのではないだろうか。
受ける人にとっては、時に感情を露わにした言動はこれまでイチロー選手に求めていたものとは異質のものに映っただろう。

決して私は盲目的にイチロー選手の全ての言動を賛美している訳ではないが、今回の感情を露わにするイチロー選手には好感をもった。
それほどまでに「本気」になってくれる熱い人間性を発見したことが嬉しかったからだ。
決勝終了後、噛み締めるかのように「想像を超えるプレッシャーがあったこと」を吐露するイチロー選手。
いずれこの大会をゆっくり振り返る言葉が本人の口から聞くことができるかもしれない。
その日を楽しみにしたい。

「守れない」「走れない」選手になったとき、自らバットを置くというイチロー選手。
3年後は35歳。
どのように変化していくのか、海の向こうで活躍するその姿に注目したい。
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by wakas | 2006-03-21 21:32 | スポーツなツブヤキ